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横浜地方裁判所 昭和59年(行ウ)25号 判決

原告

石塚運輸株式会社

右代表者代表取締役

石塚金次

右訴訟代理人弁護士

上村恵史

大澤公一

被告

神奈川県地方労働委員会

右代表者会長

江幡清

右訴訟代理人弁護士

戸田孔功

被告補助参加人

全日本運輸一般労働組合神奈川地方本部

右代表者執行委員長

勝村英一

被告補助参加人

全日本運輸一般労働組合川崎地域支部

右代表者執行委員長

正木雅治

右補助参加人ら訴訟代理人弁護士

西村隆雄

根本孔衛

岩村智文

児嶋初子

篠原義仁

杉井厳一

村野光夫

伊藤幹朗

岡田尚

稲生義隆

岩橋宣隆

小口千恵子

川俣昭

堤浩一郎

根岸義道

畑山穣

森卓爾

山内忠吉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が神労委昭和五八年(不)第一九号不当労働行為救済申立事件について昭和五九年八月一〇日付でなした命令を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  補助参加人全日本運輸一般労働組合神奈川地方本部(以下「本部」という。)及び同全日本運輸一般労働組合川崎地域支部(以下「支部」という。)は、昭和五八年六月一三日、被告に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立てをなしたところ、被告は昭和五九年八月一〇日付で別紙命令書記載の救済命令(以下「本件命令」という。)を発した。

2  しかしながら、本件命令は、次のとおり事実認定及び法律上の判断を誤つたもので違法であるから、取消されるべきものである。

(一) 配車に関する差別について

支部及びその下部組織で原告の従業員を中心に構成されている石塚運輸分会(以下「分会」という。又「支部」と「分会」を「組合」と総称する。)は昭和五七年四月二一日、原告に対し賃金引き上げ等を要求し午前零時から一二時間ストライキを実施し、これに伴う組合のピケッティングにより原告会社敷地から全てのトラックが出庫できなくなつた。そのため原告は訴外京浜天沼運輸株式会社(以下「京浜天沼運輸」という。)から依頼されていた訴外キリンビール株式会社のビールの運送ができず、京浜天沼運輸から下請契約を解除され、それまで継続的に受けていた大型トラック四台分の仕事すなわち大型免許運転手四名分(そのうち分会員は二名)の仕事を失つた。そこで原告は直ちに大型トラック四台分の仕事を探したが見付からず、中型又は小型のトラックを使用する仕事しかなかつたのでやむを得ず分会員らを中型又は小型トラックの仕事に従事させたのであるが給与は大型免許運転手として従前どおりの額を支給した。

これに対し本件命令は右ストライキに報復するため分会員らをして「一一トントラックの運転業務から外したり、運転助手業務のみの業務を割り当てたり」して差別しているとするものであるが、前述のように、大型トラック四台分の仕事が減りそれに代わる仕事は中、小型車を使用するものであつたし、他の大型車を使用する仕事も顧客から運転手の固定化を求められていたので各運転手をローテーション方式によつて配車することもできなかつたため、分会員らに対し中、小型トラックを配車したまでであつて、被告の認定するような差別的取扱いの結果ではない。そもそも従業員たる運転手にいかなる配車をするかは使用者たる原告の業務命令権の範囲内のことがらであり、原告は業務内容と運送効率に応じて各運転手に配車をしているのである。

また「運転助手業務のみの業務」割り当てによる差別とは分会員佐々木昭男に対する配車を指すものと解せられるが、原告は同人に対しては運転手として配車し、助手としての業務割り当てをしていない。

(二) 残業に関する差別について

(1) 本件命令は原告に対し分会員らに対する残業差別分の手当の支払を命じているが、残業手当は残業をした場合に残業時間に応じて支払われるものであるから右命令は、原告に対し分会員らに残業を命ずべきことを求めるものと考えられる。しかしながら残業は、労基法三二条で禁止されているのであるから、原告が分会員らに残業を命じても分会員らはこれに応じる義務はないが、原告もまた分会員らに対して残業を命ずる義務はなく、逆に分会員らは原告に対し残業を要求する権利もないはずである。しかるに本件命令は分会員らには残業を要求する権利があり原告は分会員らに残業を命ずべき義務があることを前提としているものであつて違法な命令である。

(2) また本件命令は「残業の伴わない業務などを割り当てた期間」について分会員ら以外の運転手との差額の支払を命じているが、右命令にいう「残業を伴わない業務」が原告の業務のうちいかなるものを指すか不明であり、その「期間」もいつからいつまでを指すか不明であるから右命令は内容の特定しない違法な命令である。

(3) 原告では、配車と離れた残業はなく、残業の有無、多少は配車の問題に帰結する。原告のする運送内容は顧客によつて異にし、そのため残業時間に若干の差違が生ずる。また運転手の各月の残業時間は原告の受注量と運転手の都合により異にしている。分会員らの残業時間が他の運転手と比較して若干少ない月があるのは、その分会員らに対する配車が概ね就業時間内で終了する運送であつたからである。しかも当該業務が残業にかかるか否かは当日の顧客先の仕事の進展状況や道路の混雑状況によつて左右されるのである。またある分会員に対し残業に及ぶ運送の配車をしたところ、これを同人は拒否するなどの結果残業時間に差違が生ずる場合もある。特に訴外森誠分会員(昭和五九年一月二五日付をもつて原告を自己都合で退職)については同人が残業を希望しなかつたため残業時間が他の従業員に比し比較的少ないものである。

(三) 組合事務所貸与に関する団体交渉について

本件命令は原告が組合事務所貸与に関する組合との団体交渉を拒否したとしている。しかしながら、同問題に関しては原告と組合との間で昭和五六年一二月二二日付協定が締結され、その第三項で「従業員控室及び組合事務所貸与の件については大きさ、使用方法等を組合と従業員との話し合いで決定する。」と合意されている。すなわち右協定は「組合と従業員」の話し合いを前提にしているのであるが、組合は従業員との話し合いをせず、右協定を無視して原告に対し組合事務所の提供を求めているのである。

従つて、原告としては同問題について組合からの団体交渉申し入れを拒否しているのではなく、ただ組合と従業員との話し合いがないため団体交渉が行き詰まり状態になつているにすぎない。

(四) 支配介入について

(1) 本件命令は原告の職制が分会員に対し組合からの脱退を勧める言動をしたとして職制による組合脱退勧奨を禁じているが、原告が職制を通じて分会員に対し組合脱退勧奨発言をした事実はない。

(2) また組合からの不当労働行為救済申立書の「請求する救済の内容」には原告会社における「親睦会」の組合に対する支配介入の排除を求めた部分はあるものの、本件命令のような職制による組合脱退勧奨の禁止は求められていないから、本件命令は、組合も求めていない事項に関してなされたものであり、しかも原告に対して職制による組合脱退勧奨について何らの反論、反証の提出を促さない不公平な手続によつてなされたものであるから、違法である。

3  よつて、原告は被告の発した本件命令の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

被告が本件命令において不当労働行為を認定した理由は別紙命令書記載のとおりであり、同記載の事実認定及び法律上の判断は正当であるから、本件命令は適法である。

四  補助参加人らの主張

1  配車業務の差別について

天沼京浜運輸からの下請仕事がストライキを原因としてなくなつたとすることは極めて疑わしいばかりか、代わりに確保した小倉運輸の仕事についても、原告は大型トラック二台の運転手を非組合員からのみ選び、さらに同五七年八月には新たに大型トラックの運転手として訴外原木を採用し同年一〇月からは同人を大型トラックの継続的担当に就かせている事実からみて、原告が配車につき組合員を差別扱いしていることは明らかである。また組合員佐々木昭男に対し運転手として配車割当をしたことは一度もない。

2  残業差別について

原告は、本件命令中の「残業を伴わない業務を割当てた期間」が具体的でないと主張するが、本件命令「理由」中第一の5の(8)及び第二の1の(2)を一読すれば、右期間は、別表記載のそれぞれの期間を指し、「残業を伴わない業務」とは、右期間中の組合員三名が従事した業務を指すことは明らかである。

残業は、配車に伴うものと配車以外に別個に命ぜられるものとがあり、いずれの場合も組合員を差別している。組合員森に対する残業格差は原告が故意に割当てなかつたことによつて生じたもので、森が残業を拒否したからではない。森に対する残業差別は昭和五七年九月以降一七か月も続いている。

3  団交拒否について

原告主張の協定は、組合と非組合員との話合いがつけばすぐにも組合事務所を建てるという趣旨であつたところ、同五七年四月に親睦会から控室はいらないとの態度表明があつたので、同月七日、組合は原告と団交を持つた。しかし原告は景気が悪く事務所はすぐには貸せないとのことであつたので事務所建設資金として毎月一万円以上を積立て、具体的決定は同五八年三月以降に持ち越すとの合意が成立した。そして同月組合は原告と団交を持つたが、原告は資金繰りが苦しいとの一点張りで事務所建設に応じなかつた。

4  支配介入について

労働委員会の救済命令は、不当労働行為の態様、労使関係の実情に即応して弾力的にその内容を決定すべきであつて、ただ申立人が明らかに救済を求めていないものまで救済を与えることはできないというだけのものである。補助参加人らは本件救済命令申立において、親睦会に対する指示関与のもとに行われる支配介入の禁止を求めてきたが、被告は、その具体的一部として、親睦会役員すなわち職制の組合脱退勧奨という態様による支配介入の禁止を命じたものである。

また原告は、地労委の第二回審問期日において山本証人に対し原告の組合切崩しに関し反対尋問を行つているのであつて、親睦会を通しての支配介入の問題については反論をなし反証をあげる機会はあつた。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二(当事者)

弁論の全趣旨によれば

1  原告は一般区域貨物自動車運送業を主たる業とし、一一トンの大型車両七台を含むトラック一五台を保有し従業員一五名を使用する株式会社である。

2  補助参加人本部は神奈川県内のトラック運輸関連業種を中心とした労働者約二五〇名で組織する労働組合であり、同支部は川崎地域における労働者四五名で組織する労働組合である。分会は原告の従業員を中心に構成されている支部の下部組織であり、本件救済申立て時である昭和五八年六月一三日当時の分会員は訴外森誠、山本秀夫及び佐々木昭男の三名であつた。

以上の事実を認めることができる。右認定に反する証拠はない。

三不当労働行為について

1  (分会結成と原告側の対応)

〈証拠〉を綜合すれば次の事実が認められる。すなわち

(一)  分会は昭和五四年春ころ非公然に結成されていたが、同五五年末ころ原告が景気の悪化を理由として実質上の賃金切下げを伴う給与体系の変更を従業員に提案したことを契機として公然化し、同五六年三月二日原告代表者に対し従業員一六名の名で分会結成の通告をした。

(二)  ところで右より先分会結成の動きを察知した原告代表者石塚金次は、全従業員が参加した会合の席で度々組合には入らないようにとの発言をなし、分会結成通告直前の同五六年二月二八日には分会員山本を呼び出し「組合なんか入つてもいいことないんだからやめておけ」などと申し向け、分会結成後にも従業員会合の席上あるいは団体交渉終了の際に「組合があれば会社はつぶれる」などの発言を繰り返した。さらに石塚は同年四月一二日、分会が花見を計画した際にも原告の許可を得てから実施するように求めたり、同年一〇月二七日には分会員森に対し「組合をやつていてメリットがあるのか。組合を抜けられない理由でもあるのか」などと組合からの脱退を勧める発言をした。このような経過で同五七年四月までに分会員は前記山本秀夫、佐々木昭男及び森誠の三名に減少した。

(三)  また分会結成通告後間もない同五六年春ころ原告会社内に「親睦会」と称する組織が非組合員のみをもつて結成されたが、その会合は毎月一回土曜日の夜原告代表者石塚の指示によつて浄厳寺という寺を借りて開催され、石塚もこれに度々出席し、会員からの賃上げ等の要求に対し「今は会社が苦しい。しばらくすればなんとかするので待つてほしい」などと説得に努めるとともに「組合があるので客が離れていく。親睦会は会社の状況を了解してくれるのに組合は要求をふつかけてきて困る。組合があるからこんなに経営が苦しくなつた」などと発言した。しかも同会と原告との間には原告から親睦会会長新井敏男に、同人から各会員へと連絡順序等が記載された「緊急連絡網」なるものが存在し、同五六年から同五七年にかけて組合と原告との団体交渉が山場を迎えると原告側から各会員に対し会社構内からトラックを隠すようにとの指示がなされていた。なお、同五六年九月ころ分会長山本が分会員らの親睦会への入会を希望したところ、会長新井は「名前は親睦会だが組合のようなものだから入会させることはできない」として組合員らの入会を拒否した。

以上の事実を認めることができる。〈証拠判断略〉、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  (配車等)

〈証拠〉を綜合すれば次の事実が認められる。すなわち

(一)  分会員佐々木は昭和四四年六月一〇日、同山本は同五一年一〇月一日、同森は同五三年一一月二四日いずれも大型車輛の運転手として原告に雇用され、一一トントラックの運転に従事していたもので、右車輛より軽い車種を配車されることは月一回程度であつた。なお、原告と組合は、同五六年四月二三日「会社は、組合員の身分、賃金、配転、昇格その他の労働条件について変更がある場合は事前に組合と協議し、労使双方の同意の上で円満に実施する」との条項を含む協定を締結した。

(二)  組合は、昭和五七年度の賃上げ問題等に関し同五七年四月二一日午前零時から一二時間ストライキを実施したが、右ストライキ終了後の同日午後原告代表者石塚は分会長山本に対し「組合が勝手なストをやつたので仕事を切られるかもしれない。組合のせいで仕事が無くなる。どうしてくれるんだ。責任をとつてもらうぞ」などと発言し、同所に居合わせた「親睦会」の本間、太田らもこれに加勢して右山本を難詰した。さらに同日以降にもたれた組合との団体交渉の席上でも原告代表者石塚は「これからは非組合員に優先的に仕事をまわし、組合員には残つた仕事をやつてもらう。組合のせいで仕事がなくなつたのだから当然だ」との発言をした。

(三)  原告は、右ストライキを契機に京浜天沼運輸からキリンビール社の運搬の下請仕事を打ち切られたが、この仕事は原告の受注の四割を占めており、一一トントラック四台がこれに充てられ、分会員の山本及び同佐々木と非組合員の本間及び同斉藤が右業務を担当していた。ところが原告は京浜天沼運輸からの下請業務がなくなつた同月二三日以降は右非組合員両名に対しては新たに獲得した小倉運輸等の一一トントラックによる運送業務を継続的に割り当てながら、山本及び佐々木両分会員については大型トラックを配車せず同月下旬以降同年七月ころにかけては待機させたり或は洗車、ドラム缶の蓋切りなどの雑用を非組合員よりも頻繁に割り当てた。しかも原告は、同年八月一日以降分会員山本に対しては従来の担当者が退職して空きができたとして四トントラックのみを配車し、これが本件審問終結時まで継続されていたが、右四トントラックの仕事は、小倉運輸の下請の砂糖運搬であり、走行時間の割に積下ろし作業の時間が長く、また一一トントラックと異なつてリフトとパレットを使用しての機械による積下ろしの不可能な場合が多く、二〇ないし三〇キログラム程度の荷を肩に乗せて運ぶことを余儀なくされることから、原告の仕事の中では従業員から嫌がられるもののひとつであり、且つ割り当てられた四トントラックは運転席が雨漏りしたり、クーラー、ヒーターも効かない老朽化した車輛であつた。また原告は、昭和五八年二月二日以降分会員佐々木に対し東信電気の精密機械の運搬業務を割り当てたが、右業務に使用していた車輛二台の運転手には空きがなく運転助手が一名退職した後の補充であつたうえ原告から運転手らに対し佐々木と交替業務に就くよう指示が出されなかつたため、佐々木は本件審問終結時まで運転助手の業務に従事せざるを得ない状態におかれていた。なお、原告においてはそれまでは一一トントラックの運転手であつた者が運転助手の仕事を割り当てられた例はなかつた。さらに原告は、分会員森に対し昭和五六年六月一五日以降一一トントラックの運転をはずして四トントラックを配車割り当てし、同人への一一トントラックの配車は他の従業員が休業するか繁忙期の代替要員としてのみとされ、しかも原告は前記ストライキの翌日である同五七年四月二二日から同年七月中旬ころまでは「得意先より組合に入つている者を来させないでくれと言われた」として森を四トントラックの運転からはずし、同月下旬以降の配車においても「積置き」だけで運転を伴わしめないことが多く、さらに同五八年五月ころにかけては山本、佐々木らと同様他の従業員に比し頻繁に待機又は洗車、ドラム缶の蓋切り等の雑用をさせた。なお、「積置き」は、翌日早朝からトラックを運行できるように運搬する積荷を前日にあらかじめ積み込んでおくことであり、積置き業務だけ命じられると、翌日の早朝から七時三〇分までの早出残業を伴う運搬業務がないため実収入減を来たすこととなるので従来は積置きだけの仕事をさせることはなく、翌日の運搬に当たる運転手が積置きをしていた。

(四)  これに対し組合は、原告の分会員らに対する配車問題に関し原告と団体交渉を繰り返してきたが、原告は「一一トントラックの仕事がないから無理だ。仕事さえあれば一一トントラックに乗務させる」などと言いながら昭和五七年八月一九日に採用した非組合員原木に対しては、同年一〇月から一一トントラックを継続的に配車し、同五九年四月上旬に東洋ガラスから継続的な一一トントラックによる運送業務を請負つた際も、その仕事を分会員には割り当てず非組合員にのみ割り当てた。

以上の事実を認めることができる。〈証拠判断略〉、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  (残業)

〈証拠〉を綜合すると、原告における従業員の昭和五六年七月から同五七年四月までの一〇か月間の月平均残業時間数は、分会員森が三五・七時間、分会員山本が五三・九時間、分会員佐々木が三六・一時間であり、分会員三名の平均残業時間数はいずれも非組合員運転手八名の平均三四・六時間を上回つていた。しかるに前記ストライキ後の昭和五七年五月以降、分会員森については同五九年一月までの期間、分会員山本については同五七年七月まで(八月以降は四トン車乗務)の期間、分会員佐々木については同五八年一月まで(二月以降は運転助手)の期間のそれぞれの月間残業時間数及びそれらと非組合員運転手八名ないし一〇名の月平均残業時間数との比較は別紙命令書の別表記載のとおりであつて、森ら組合員の割当時間数は極端に減少した。なお、森ら組合員三名は原告の残業命令を断つたことがなかつた。

ことが認められる。〈証拠判断略〉、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  (組合事務所の貸与)

〈証拠〉を綜合すれば次の事実が認められる。すなわち

(一)  原告と組合は昭和五六年四月二四日「会社は組合に対し掲示板、組合事務所を貸与する。組合事務所については従業員控室、厚生施設である風呂場の設置を行いその段階で貸与する」との協定を結び合わせて同年一〇月を目途にこれを貸与するとの口頭の合意がなされ、同年九月二日の団体交渉の際にも双方で右合意が確認された。

(二)  しかして、右合意の内容が履行されなかつたところ、同年一一月二八日の団体交渉において、分会と原告は「組合事務所については建てることで諸条件を一二月一〇日までに労使双方が出し合う」との覚え書をとりかわし、同年一二月九日には原告と支部との間で「組合事務所の貸与については、組合の出した条件を前提に会社は組合に四・五帖大を貸与すると同時に四・五帖大の従業員控室を合わせた形の建物をつくる。電気その他の使用方法については会社と分会で話し合う」との覚え書をとりかわした。

(三)  そこで分会は、右二通の覚え書の趣旨に副つてその後原告代表者石塚に対し組合事務所の設置を迫つたが、石塚はあいまいな返答を繰り返していたところ、同月一九日石塚から分会に対し「親睦会」から不満が出ているので話し合いをしてほしい旨の申し出があつたので、同日、「親睦会」の会長新井及び中村と分会長山本、増子及び佐々木の三名並びに原告代表者石塚が組合事務所貸与問題について協議した結果、出席者の間で「従業員控室、組合事務所貸与の件に関しては従業員間で話し合いのうえ使用方法その他の細い事に関して決める」旨の条項を含む確認書が作成された。なお、右出席者のうち新井及び中村は、非組合員従業員の代表として右確認書に署名したが、そのころ非組合員の間では原告に対し従業員控室貸与の要求を出したことも、この点について討論したこともなかつた。

(四)  その後組合は原告に対し前記一二月九日付の覚え書に副つた協定書の作成を要請したが、原告は一二月一九日付の確認書をたてにこれを拒み、同月二二日、原告は、この日を年末一時金の支給日として午後五時ころから従業員全員を待機させたうえ、組合に対し前記一二月一九日付確認書における組合事務所貸与に関する条項を含んだ協定書に組合が調印しない限り一時金の支給はできないとしてその調印を迫り、「親睦会」の新井、中村らも組合員に対し「早く妥結しろ」などと怒鳴り始めたので、組合は混乱をさけるためやむなく同協定書に調印した。なお、その際原告代表者石塚は従業員間の話し合いがつけばすぐにでも事務所を設置すると述べた。

(五)  而して組合は、右協定書にいう従業員間の話し合いをすべく新井に対し協議を申し入れ、同五七年四月五日分会長山本と新井との間で話し合いがもたれたが、その際新井からは「親睦会」としては従業員控室を要求しないことにするとの趣旨の申し出があつた。そこで組合は、同月七日の団体交渉において「親睦会」の前記意向を原告に伝えたうえ組合事務所の早期貸与を要求したところ、原告代表者石塚は資金繰りが苦しいから直ぐには建てられないと述べた。そしてその後同年五月一日、同月一一日の団体交渉を経て、同年六月四日の団体交渉において、原告と組合との間で「今後会社は組合事務所の建設資金として同年四月から毎月一万円以上を積み立てるとともに、具体的な決定は積み立てから一年以後の話し合いによる」との合意に達した。

(六)  しかるに右合意に基づいて再開された昭和五八年三月一日、同月一五日、同月二八日、同年四月一二日及び同年五月一七日の団体交渉において組合がそれまでの経緯をふまえて組合事務所貸与の要求をしたのに対し、原告はただ単に資金繰りが苦しいので建てられないとの返答を繰り返すのみであつて、「従業員間の話し合いがなされないため具体的な交渉に入ることができない」との説明は一度もなかつた。

以上の事実が認められる。右認定に反する証拠はない。

5  (支配介入)

〈証拠〉を綜合すれば、中村は昭和五七年一一月二六日当時原告の運輸第二班長と「親睦会」の会長とを兼ねていたが、同人は「親睦会」の席等で原告代表者石塚が「森は意志が弱いので組合を抜けられないのではないか」などと発言したのを受けて、前同日、分会員森に対し、「組合をやめちやいなよ。森君、意志が弱いんだろ」などと発言したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四本件救済命令の当否

1 主文第一項

前記三において認定した事実を綜合すると、原告は、従業員の間で労働組合が結成されることを嫌い機会ある毎に従業員に対し組合に加入しないよう呼びかけていたが、昭和五六年三月二日、分会が結成されたとの通告を受けた後は、「組合ができれば会社はつぶれる」との危機感を抱き、分会加入者に対して脱退勧奨をする一方、非組合員を以つて「親睦会」を組織して組合に対抗し、同五七年四月二一日の組合によるストライキ以後においては、組合員山本、佐々木及び森には大型一一トントラックを配車割り当てせず、待機又は洗車、ドラム缶蓋切り等の雑用に従事する時間を非組合員より多くし、特に山本に対しては従業員の間で嫌われている人力による貨物の積み降ろしを必要とする業務に就かせ、佐々木に対しては同五八年二月二日以降事実上運転助手として就労せざるを得ない部署に配置するなど組合員を非組合員と極端に差別していることは明らかであつて、原告によるかかる差別扱いは、原告が組合を嫌悪しこれを壊滅させるためにした組合員に対する不利益扱いとして労組法七条一号及び三号に該当する不当労働行為を構成するものというべきである。

よつて組合員に対し配車につき組合員以外の大型免許を有する従業員との間で差別扱いをしてはならないとの救済命令は相当として是認することができる。

2  主文第二項

前記三で認定した事実によれば、森ら三名の組合員の残業時間と非組合員の平均残業時間との間には格段の開きの存することが認められるが、これは原告の組合員に対する配車及び残業割り当ての差別扱いの結果であることは前示認定事実に照らし明らかなところであつて、この残業の差別も、原告の組合に対する嫌悪及び組合壊滅の意図から出た労組法七条一号及び三号該当の不当労働行為であると認めることができる。

原告は、労働者は雇主に対して残業を要求する権利を有しないから、労働者に残業を命ずるか否かは雇主の自由であると主張するのであるが、残業は労働者の収入に影響を与えるものであるから残業を命ぜられた労働者がこれを拒絶する場合は別として、いやしくも雇主が労働者に残業を命ずる場合においては同一職場で同一職種にあるすべての労働者に対して平等にその機会を与えるべきであつて、組合員を差別する意思を以つて残業割り当てに差を設けることは労組法七条一号及び三号該当の不当労働行為となるものである。

したがつて組合及び組合員の被つた不利益を回復し以つて組合の団結権を保護するためには、森ら三組合員が差別により受け得られなかつた残業手当分を支給させることが相当であるから、この金額を非組合員運転手平均残業時間数と森ら組合員の従事した残業時間数との差に残業手当単価を乗じて得られる額として、これに年五分の遅延損害金を付加して支払うことを原告に命じた主文第二項は相当というべきである。

なお、原告は、本件命令主文第二項中の「残業を伴わない業務」とその「期間」の部分がいかなる内容を指すか不明であると主張するが、右「期間」が別紙命令書の別紙記載のそれぞれの期間を指し「残業を伴わない業務」が右期間に分会員三名がそれぞれ従事した業務を指すことは右命令自体から明らかであり、支給さるべき差額金をも明示してあつて何ら不明確な点は存しないものである。

3  主文第三項

前記認定事実によると、原告は同五八年三月以降、組合事務所の貸与問題に関し組合との団体交渉において誠意ある態度を示していないことが認められるところ、原告と組合との間では同五六年四月二四日に原告が組合に対し組合事務所を貸与するとの合意が成立し、その時期についても同年一〇月を目途とするとの口頭約束ができ、同年一二月九日には事務所の大きさについても覚え書が交わされていること前認定のとおりであるから、原告としては、組合事務所の貸与約定実現のために組合と誠意を以つて団体交渉に応ずべきであつていたずらに口実を設けこれに応じないことは、前述のとおり原告が組合を嫌悪しこれを壊滅させることを意図してする労組法七条二号該当の不当労働行為であるということができる。

よつて原告に対し組合事務所の貸与問題に関する団体交渉に誠意を以つて応ずべきことを命じた主文第三項もまた相当というべきである。

4  主文第四項

「親睦会」の会長中村が、同五七年一一月二六日、組合員森に対し組合を脱退するよう申し向けたことは前示認定事実によつて明らかであるところ、「親睦会」が原告が組合に対抗するため組織した団体であつて会長中村は原告の職制(第二班長)であるとの前記認定の事実に鑑みると、中村の右言動は原告の意向に従つた行動と評価され得るから、中村の右言動は原告が職制を使つてした労組法七条三号該当の不当労働行為というべきである。

原告は、組合から出された請求する救済の内容は「親睦会」の組合に対する支配介入の排除であつて職制による組合脱退勧奨の禁止は求める内容になつていなかつたから本件命令は申立人の申し立てない事項に関してなされた違法のものであると主張する。

なる程〈証拠〉によると、組合が被告に提出した不当労働行為救済申立書の「請求する救済の内容」の第四項には「被申立人会社は……『親睦会』なる団体の設立、運営に関与しこれと労働条件に関する話し合いを行うなどして、申立人組合らの運営に介入してはならない」となつていて、本件命令主文第四項とは一見異るようにみえる。

しかしながら組合が救済を求める事項は、要するに原告の組合に対する支配介入の排除であつて、前記申し立ては支配介入の一つの例示として「親睦会」を設立、運営することによる組合への支配介入を掲げているものと解することができるところ、〈証拠〉によると、組合ら提出した不当労働行為救済申立書の「不当労働行為を構成する具体的事実」の中に、親睦会役員には原告の職制が就任していること及び親睦会役員による組合切り崩しの言動があることが記載されている(同申立書一一頁)から、組合への支配介入の一態様として主張しているものというべきであり、さらに〈証拠〉によると、組合は地労委における昭和五八年六月二七日の第一回調査期日において原告による組合員森に対する組合脱退勧奨の言動があつたことを述べている(第一回調査速記録五頁)ことからすれば、原告職制による組合員に対する組合脱退勧奨も原告の支配介入の具体的事例として被告に対しこれが救済を求めていると認めることができるから、被告が本件救済命令を出すにあたつて右中村の行為を原告が職制を通じてなした行為と認定、判断し、原告に対して職制をして組合脱退を勧める言動をさせてはならない旨命じたことには、申し立てない事項についてなした違法は存しないものといわなければならない。

また原告は、職制による組合脱退勧奨について反論、反証の機会が与えられなかつた手続上の違法がある旨主張するが、前記認定のとおり組合からの申立書にはその趣旨の記載がなされているから、原告には反論、反証の機会は十分あつたのであり、むしろ〈証拠〉によると、原告は地労委の第二回審問期日において証人山本に対し原告の組合切り崩しに関し反対尋問を行つていることが認められるのである。

原告の以上の主張はいずれも採用の限りでない。

よつて主文第四項も相当として是認することができる。

5  主文第五項

主文第五項は、原告に対し不当労働行為に対する謝罪広告を命ずるものであるが、組合をして原告の以上の不当労働行為によつて被つた不利益を回復させるとともに、原告のした不当労働行為を除去しこれを是正する方法として原告に対し謝罪広告を命ずることは必ずしも不相当な措置であるとは認められないから、主文第五項もまた是認することができる。

五以上説示のとおり、本件命令には違法はなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条九四条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安國種彦 裁判官山野井勇作 裁判官小池喜彦)

命令書(省略)

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